マスター花雪 物語り

天使との時間

怒ったら鬼ですが
どうしてこんな事に、、。
これは子供の頃に、ある英国人カフェのマスターからマーマレードの作り方を教わるまでのことです。
花雪(ハナユキ)という名はそのマスターが私の父に付けたあだ名でした。
父の名は「ヨシユキ」だったので苗字の花(ハナ)を付けて「ハナユキ」と呼んでいました。だから私は二代目「ハナユキ」ですね。
父は元軍人で猟銃を何丁か持っていました。
猟が趣味で鳥を撃ってはマスターの店に持ち込んでいました。それを奥様が料理して素敵な夕食を振る舞ってくれるのです。
マスターは普段は優しい紳士でしたがお酒を飲むと怒りっぽくなる人でした。
ある日食事中にたらたらと猟銃の自慢話をしていた父が突然「あちゃー」と顔をしかめました。
鳥肉の中には時々取りきれていない散弾が残っていることがあります。
酔ったマスターが運悪くそれを思いっきり噛んで歯が欠けてしまったのです。
痛かったでしょうねとても。
んで、「ゥオー!ハナユーキ!ソノ銃デオ前ヲ撃チ殺シテヤル!」
、となります。
もう食事どころではありません。
その銃はマスターの後ろの壁に立て掛けてあったのです。
実弾も一緒に。
奥様は慣れているのかすかさず私と姉と母を厨房の裏口から逃がし、
父は店の玄関から飛び出して車に駆け込み私達もあわてて同乗します。
まさか本当に発砲されるとは思ってなかったでしょうが父は全力で敷地から離脱しました。
この時代の大人は危険予知能力と逃走力が高いですね。私と姉は何だかすごくワクワクして車の後席でキャッキャウフフでしたけど。
しかし今より大らかな時代だったとはいえ「外国人宅に散弾銃を放置して帰りました実弾もねてへ」これはあかんやつです、、。
父と私は銃を回収するために二、三日ほとぼり覚まして店に向かうことにしました。
「修羅地に我が子を連れ行くなど、、」と、母は言ったそうですがこんな面白そうなビッグイベント!乗るしかありません。
父は思いっきり店の真ん前に車を止めました、何かあればまた今日も逃走するつもりなのでしょう。
次に威勢よく玄関をバンと開けて奥に向かって「よっ」と、手を振ります。
今思うと無謀にも虚勢で押し切って銃を回収つもりだったのでしょうね。
カウンターの奥で何か作っていたマスターも私達を見つけて手をちょっと上げます。
これから何が起こるかまったくわからない雰囲気です、謝るのか謝られるのか撃ち殺されるのか、、。
マスターは手を拭き終わったタオルを厨房に放り投げて父を睨み付けています。
そしておもむろに「二日酔イナンカシマセーン」と言い放ちました。
いや、そこじゃないのですが、、、。
マスターが作っていたのはお店自慢のマーマレード。
そしてちょっと恥ずかしそうに父に手渡したのは何とそのレシピ!
しれっと受け取る英語の読めない父、いいの?
やがて奥様が申し訳なさそうにお茶の準備を始めました、あーよかった。
さて命がけで銃を回収してレシピまで手に入れた父ですが包丁を握ったことのない彼が作れるわけもなく命題は家族に向かいます。
母は「そんなもの作ってる暇などありませぬ。あれば食べますが」
姉は「お勉強の邪魔になることさせないで。あなた作りなさいよ」
父は「チミが作ればよい。わたしが食べてあげよう」
と、私がマスターの店で教えてもらうことになるわけです。
まだ幼い子供に何をさせるのだこの人たちは、、。
私達一家は、
酒癖が悪く怒りっぽくて怒鳴り散らしながら銃を振り回す髭の天使様と過ごしたのです。
それはほんの数年間の、とてもとても素敵なかけがえのない時間でした。
二代目「マスタ-花雪」のお仕事

最初は催事での販売だけでした。どこかでお会いしてるかもですね。

今はもう少し広い場所で作ってます。
福岡県生まれ。
東京でコンピュータープログラマー業の後、コロナ疎開で佐世保市に移住。
居心地が良いのでだらだらと現在に至る、、。